研究概要 |
本研究における第1の目的は,無響室や防音室といった特殊な場所にとらわれることなく騒音や住宅等の遮音性能を体験できる,耳栓型電気音響変換器を使用した騒音体験シミュレータを構築することである。具体的には,暗騒音がある現場でも視聴でき,かつ方向感や距離感,移動感といった臨場感のある騒音体験システムを構築した。(1)耳栓とアクティブ耳栓を使用して周囲騒音を低減するシステム,(2)その耳栓を直接駆動する電磁型電気音響変換器を接着した新しいイヤホンシステム,(3)耳栓と鼓膜に囲まれた外耳道内小容積の音圧を測定する超小型マイクロホンシステム,および(4)メガネタイプのディスプレイシステム等を設計・製作した。心理評価実験結果から,(5)視覚系と聴覚系を組合せると,視覚と聴覚の統合効果により,移動感,距離感等が得られること,(6)「うるささ」に関する自動車騒音源シミュレータによる心理的影響の程度と現場視聴実験結果との整合性が得られること,(7)「少しうるさい」はL_<AE>で76dB前後,「うるさい」は82dB前後に対応していることなどがわかった。第2の目的は,本シミュレータによって防音効果を体験することと,主観的判断とシステムズアプローチをミックスした問題解決型意思決定手法の一つである階層分析法の適用により,防音設備選択に関する複数の選択基準の重み付けを行い,それらの結果から,最適な防音設備選択の支援が可能かどうかを検討することである。得られた主要な結果から,(1)騒音環境の等価騒音レベル値が60dB以上になると,階層構造を構成する要因は「費用」よりも「遮音性能」の方が重要であること,(2)「遮音性能」においては,「うるささ」要因が最も重要であることなどがわかった。 以上から,合目的的で経済的な騒音防止対策をたてるにあたって,本研究の環境騒音シミュレータは,事前に予測したものが,実感的に体感できることから,dB単位の数値による説明だけよりも,説得力がありかなり有効であると考えられる。しかも,階層分析法と組合せることにより,騒音の測定・評価・対策技術の選定法に全く新たな進展が図られたものと言えよう。
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