研究概要 |
1.廃用とミトコンドリアDNAの異常と筋徴細構造の変化 ラット・ヒラメ筋の2週間および4週間の後肢懸垂による廃用後の変化をみると,筋微細構造の変化とともに筋mtDNAの欠失がみられた。2週間の廃用筋のミトコンドリアの多くは縮小・濃縮傾向で,逆に膨化または空胞化を示したものもみられ,Z帯の周辺の細いアクチンフィラメントの融解消失像もみられる。4週間の廃用でもZ帯の配列構造の乱れも顕著となりその融解像が認められる。一方,廃用2週間後に自然荷重による回復2週間を経過した筋では,mtDNA異常は認めず回復傾向がみられた。 2.筋伸張と筋廃用 2週間のラット後肢懸垂と同時に筋の持続伸長を行い,筋萎縮の程度と,その後の自然回復に関与する影響について検討した。筋を伸長せずに筋活動が低下した短縮廃用筋は筋湿重量,総RMA発現は低下し,筋萎縮に陥るとが考えられた。これはタンパクの変性が進み,タンパク増生のための遺伝子発現・転写が低下するためと考えられ,筋ストレッチングは筋萎縮の抑制効果として期待される。 3.廃用骨格筋に対する運動療法の影響 急性過度走行は,筋のmtDNA変異と微細構造に損傷を与えることは本研究の結果からも明らかである。廃用と急性過度運動は筋組織変性とmtDNA変異を引き起こし,廃用筋に対する運動療法には,酸化ストレスを増加させるような急激な運動は禁忌となり,持久運動は筋伸張と同様に筋廃用への対応策として有効であり,廃用骨格筋に対する運動療法のあり方にも示唆を加えた。 4.おわりに 廃用は,活性酸素生成の増加,筋組織損傷の変化,mtDNAの異常変化が引き起こす。臨床の場で危倶することは,廃用後の回復期の酸化ストレスの増加と組織損傷の増悪であり,まさに臨床にみられる疾病や麻痺後の廃用筋では意外にも運動療法が局所的な虚血・再灌流を起因とする酸化ストレスを増加させ,筋萎縮を進行させている可能性を意味する。
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