研究概要 |
1)ビデオ嚥下造影解析システムの開発 舌骨を運動指標とし,数値化,グラフ化するシステムの開発を試みた.デジタルビデオ画像をコンピュータに取り込み(30フレーム/秒),各フレーム毎に再生し,嚥下運動の代表的指標を同定した.フレーム左上を原点とする絶対座標点を表示,記録するソフトウエアを自作した. 2)正常嚥下の解析 咀嚼期(嚥下準備期)の舌骨運動は下顎運動と相関する傾向を示し,特にx軸の運動の相関が高かった(r=0.81).一方,Y軸の相関は低い傾向を示した(r=0.52). 咽頭期では,舌骨の上前方移動が明らかになった.特にX軸方向の振幅が著しく大きくなった. 咽頭期の開始時には下顎は上顎と接し,運動は停止した. 咀嚼を有する嚥下の場合,約80%に咽頭期開始前に食塊が咽頭に進入する現象を認めた. 液体と固形物の混合物を咀嚼嚥下した場合,約100%に咽頭期開始前に食塊が咽頭に進入する現象(咽頭進入)を認めた. 3)脳卒中例嚥下の解析 舌骨運動については解析中. 誤嚥群において,液体と固形物の混合物を咀嚼嚥下した場合,全例に咽頭進入を認めた. 非誤嚥下群において,液体と固形物の混合物を咀嚼嚥下した場合,咽頭進入を認める例は少なかった(約60%). 考察 異常嚥下の現象に咽頭期嚥下運動遅延がある.これは命令嚥下時の観察から食塊の位置と咽頭期嚥下運動の開始との時間差を考えものである.しかし咀嚼を有する嚥下の場合,正常でも咽頭進入は多く観察されこれを異常な現象と言う事はできない.新しい指標として,咀嚼停止から咽頭期嚥下運動の開始時の時間差を計測する方法が考えられ,現在評価中である. 脳卒中例では液体と固形物の混合物をを咀嚼嚥下した場合,咽頭進入を認める例が正常群より少なかった.しかし,誤嚥を有する例では全例に咽頭進入を認めた.誤嚥のメカニズムとして,咽頭期嚥下運動遅延より,口腔機能と喉頭閉鎖機能の関連が重要である可能性が高い.
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