研究概要 |
健常な内皮細胞はプロスタグランジンI2(PGI2)やトロンボモジュリン(TM)などの血栓抑制因子を組織因子(TF)などの血栓形成因子より優位に産生しているため,血栓形成を抑制している.しかし,内皮細胞が様々な刺激物質に曝されると血栓抑制因子の産生が低下し,逆に血栓形成因子の産生が優位になり,血栓を生じ易くなる.アンチトロンビン-III(AT-III)は内皮細胞に作用してPGI2の産生を促進する.本研究はAT-IIIがPGI2産生だけでなく,他の内皮細胞機能に対しても抗血栓に向かわせるかを検討した. 1.培養血管内皮細胞がTNFαに曝されると,TFの遺伝子転写活性を促進してTF抗原の発現を誘導すること.AT-IIIはTF転写を抑制してTF発現量を低下させることを明らかにした. 2.抗がん剤であるブレオマイシンは血管内皮細胞に直接作用して,転写因子NF-κBを活性化して白血球接着因子であるELAM-1の遺伝子転写活性を惹起し,その発現を誘導することを突き止めた.しかし,AT-IIIはELAM-1の発現誘導を抑制することはなかった. 4.酸化LDL中の酸化リン脂質がRARs, RXRαおよびSp1たんぱく質の内皮細胞での発現を低下させるため,それらたんぱく質がTM遺伝子上流のそれぞれの結合部位へ結合できなくなり,TM遺伝子転写活性が低下することを明らかにした.酸化LDLによるTM発現低下をアンチトロンビン-IIIが抑制する作用は認められなかった.以上の結果は,AT-IIIが内皮細胞に対して,一部抗血栓性に作用するが,すべての抗血栓機能を増強することはないことを示している.
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