研究分担者 |
松田 紀子 慶應義塾大学, 医学部, 助手 (80286541)
大前 和幸 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (60118924)
吉村 泰典 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (10129736)
谷垣 礼子 慶應義塾大学, 医学部, 助手 (00265852)
土屋 慎一 慶應義塾大学, 医学部, 助手 (70276327)
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研究概要 |
精巣においてspermatogoniaの増殖・分化に関わり,受容体型チロシキンナーゼファミリーに属するprotooncogeneであるc-kitが,精子形成に及ぼす作用を検討するために,ホモおよびheteroのc-kit mutantマウスを用いてgerm cellにおけるc-kitの発現をflow cytometryで分析し,精子形成過程での障害の分化stage,とくにspermatogoniaの減数分裂機構に関わるc-kitの関与を検索した.次いで,germ cellにおけるc-kitのmRNAの発現をRT-PCRで分析し,さらにc-kit抗体CD117を用いてマウス精巣の免疫組織化学的検討を行った。精子形成過程での障害の分化stage,とくにspermatogoniaの減数分裂機構に関わるc-kitの関与を検索した。研究には,生後10日および11週齢マウスC57black(wild type+/+),細胞膜貫通部を含む78個のアミノ酸の欠落がある突然変異のヘテロW/+,790番目のアミノ酸の点突然変異のヘテロW^V/+,機能喪失性突然変異遺伝子を2個持つW/W^Vを使用した。1)各マウスより精巣細胞を分離し,抗マウスc-kit抗体(CD117)と反応させ,flow cytometryでc-kit陽性細胞率を解析した。生後10日の幼若wild typeではc-kit陽性細胞は3.8%であったのに対し,生後11週齢の性成熟マウスでは0.5%であった。また,生後10日のヘテロmutantにおける抗c-kit抗体陽性細胞の比率は,W/+およびW^V/+では各々2%であり,wild typeの約2分の1と低い発現率であった。ヘテロmutantでは精子形成の抑制は認められなかったが,生後10日および11週齢ともにW/W^V mutantではwild typeおよびヘテロの精巣に比較し,精巣重量および精巣細胞数は有意に低下していた。しかし,生後11週齢ではc-kit陽性率は2.5%と高く,精子形成の強い抑制とmaturation arrestの状態が示された。c-kitは精子形成過程の初期段階に深く関与し,男性不妊とくにmaturation arrestの発生にかかわる因子であることか示唆された。2)精細胞自体にc-kit m-RNAの遺伝子発現を検出し,さらに免疫組織学的にLeidig細胞に強く,そして精細管内のspermatogoniaに一致して中等度のc-kit発現を認めた。このことから精細胞におけるc-kitの産生が証明された。一方,W/W^Vhomo mutantにおいては精卵管の欠失とc-kitの遺伝子およびタンパク発現が僅かに認められるにとどまった。生後10日および11週齢ともにW/W^V mutantマウスで精子形成の強い抑制とmaturation arrestの状態が示された。c-kitとその遺伝子発現の結果から,精巣において産出されるc-kitは精子形成過程の初期段階に深く関与し,近年,内分泌撹乱化学物質や他の合成産物によってその発生の増加が指摘されている男性不妊とくにmaturation arrestの発生に関わる因子であることが示唆された。
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