1 現代の多民族社会に関する文化論的、社会学的研究文献を収集し、それらの理論的背景を調査した。とくに、タギエフが指摘する、文化多元論的傾向(差異主義および新人種主義と呼ばれる思潮)において、対立するイデオロギーが同一の根拠をその議論において用いるという一見矛盾した現象を調査の中心とした。 2 平成11年度に収集した研究文献にもとづき、ゲオルク・フォルスターおよびヴィルヘルム・フォン・フンボルト、アレクサンダー・フォン・フンボルトの著作から、人類の文化的、民族的、人種的多様性に関する記述を抽出、整理し、かれらの多元論的世界認識がどのようなものであるかを理論的に再構成した。 3 ドイツ語圏において、ヘルダーからフォルスターやフンボルト兄弟を経て文化的多元論が成立した理論的経緯、歴史的条件を考察し、その特徴と欠陥を明らかにした。 4 1で得られた結果と3の成果をあわせて、ドイツ語圏において成立・発展した文化的多元論が、現代の移民問題や人種間対立を考える際のフレームワークとしてどの程度有効かを考察した。その結果、18世紀後半から19世紀にかけて、主としてヨーロッパ外世界を把握するために考案された文化的多元論は、その成立時の歴史的条件に深く制約されており、そのためヨーロッパの内と外の世界が混淆するという形で進行している現代ヨーロッパの多民族・多文化社会に適用した場合1で指摘したような矛盾が生じるのだ、という結論に達した。
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