研究概要 |
剣山地カヤハゲの南側斜面の谷頭部に設置された調査プロット(95m×70m)において,土壌柱状試料の花粉分析を行った.この調査プロットでは全立木の毎木調査と土壌柱状試料の花粉分析がすでに行われており,それらに本研究の結果を加えて調査区内の過去の植生変化について調査した.調査プロットは,モミとヨグソミネバリが優占し,ウラジロモミ,ミズナラ,ブナ,イヌシデ,アサガラなどが混生する林分である.斜面下部の2地点の土壌断面には埋没層位(IIA)が認められ,その上部には長径O.4〜1.6cmの木炭片が多量に堆積していた.この木炭片の^<14>C年代測定値は380±30yrsBP(Beta-140229)であった.それらの地点では,IIA層上部を境にして,それより下層部ではクマシデ属,カエデ属,ブナ属,ケヤキ属,トチノキ属花粉などが特徴的に出現するのに対して,上層部ではカバノキ属花粉が高率で出現していた. 既報告では,立木の種組成・サイズ解析,年輪解析および花粉分析の結果と,大栃営林署の森林開発計画書の内容から,19世紀後半における用材の切り出しや薪炭材の生産のための大規模な森林伐採によってこの調査プロットの植生が大きく変化したものと考察した.しかしながら,木炭片の^<14>C年代測定値から,この植生変化は少なくとも19世紀後半以前に生じた可能性があり,木炭片の多産が人為による火災撹乱に起因するか否かについても再考する必要がある.炭化片とともにIIA層上部に含まれていた花粉の^<14>C年代測定については現在依頼中であり,その結果と合わせて議論する必要があるが,火災撹乱以前にはこの調査プロットは多様な広葉樹を交えたモミ-ツガ林であったと推定される.また,土壌を採取した4地点は近接しているが,花粉分布パターンは大きく異なり,火災撹乱以前では微地形単位により植生の組成が異なっていたと考えられる.
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