研究概要 |
藻類、特に褐藻類における有性生殖には同型配偶子接合、異型配偶子接合、そして卵生殖が観察できる。このことは動物や陸上植物と大きく異なり、同一系統群での有性生殖の種々のパターンを実験的かつ具体的な分子レベルにおいてに比較することが可能である利点を有する。本研究では同型配偶子接合においては雌雄配偶子の核内クロマチンの凝縮度に大きな違いが見られないのに対し、卵生殖での精子核は動物精子の場合と同様に極端なクロマチン凝縮が起こることに着目し、褐藻類の同型配偶子接合を行うワタモ・マツモの雌雄配偶子、卵生殖を行うウガノモク精子のそれぞれの核内クロマチンを構成する塩基性タンパク質であるヒストンについて電気泳動法(SDS-PAGE,AUT-PAGE)を中心に調査を行った。ワタモ・マツモの雌雄配偶子では構成ヒストンに差は見られなかった。つまり、コアヒストンとして明確な4種類のバンドとリンカーヒストンH1が観察できた。褐藻類では現在までヒストンタンパク質についての報告が皆無であるため、アミノ酸シークエンサーを用い、N-端側から20個程度のアミノ酸配列を決定し、従来より報告のある他生物とホモロジー検索を行い、これらコアヒストンがヒストンH2a,H2b,H3,H4であることを確認した。これに対しクロマチン凝縮が顕著であるウガノモク精子の場合、H2a,H2b,H3,H4の4種のコアヒストンが確認できたが、リンカーヒストンH1の移動度が異なることが明らかになった。マイクロコッカルヌクレアーゼによるクロマチン処理からワタモ・マツモの雌雄配偶子、ウガノモク精子の核内クロマチンは顕著な体細胞型ヌクレオソーム構造をとることが明らかになった。このことは、褐藻類の卵生殖における精子核内クロマチン凝縮は、動物精子で見られるヒストンからプロタミンへの置き換わりで誘導されていないことを意味している。むしろ、リンカーヒストンH1の違いがクロマチン凝縮を誘導している可能性を示唆している。
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