研究概要 |
本研究では遺伝子の進化が時間に沿って生じる「分岐過程」モデルを用いている。これは,最近流行している「帰祖理論」が時間を遡るのと異なり,進化の自然な状態をシミュレートしているので,突然変異だけでなく自然淘汰や組み換え,移住などの過程を簡単にモデルに組み込むことができる。 本年度は昨年度に引き続き,分岐過程を用いて遺伝子系図を生成するためのプログラム開発を行った。ひとつは基本的な進化過程に関するものである。このプログラムはある特定の遺伝子から出発し,与えられた遺伝子伝達確率(次世代に何個のコピーを伝えるかについての確率分布)にしたがってコピー数を増減してゆく過程をシミュレートする。実際にある遺伝子が何個のコピーを次世代に残すかは,疑似乱数を発生させるモンテカルロ法を用いている。すでに,遺伝子が分岐して子孫遺伝子を残してゆく過程をグラフィカルに表示できるソフトを完成させた。現在,基本的な変数(ポアソン分布などの,単純な遺伝子伝達確率分布の平均や分散)のもとで理論的な期待値と実験値が一致するかどうかを調べているところである。 本年度に開発したもうひとつのプログラムは,大量の塩基配列データを高速に処理することのできるアルゴリズムを備えたものである。これは多重整列がすでに行われたデータの利用を前提としており,それらから同一配列を合体した後,単一変異(いわゆるシングルトン)を持つサイトを取り除く。この後に再び同一配列が新たに発生したかどうかをチェックする。このプログラムは,シミュレーションで生成された大規模データの解析だけでなく,実際のデータ解析にも有用である。 今後,本研究で開発したこれらのプログラムを用いて分岐過程の大規模なシミュレーションを行う予定である。
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