研究概要 |
本研究では,高周波反応性スパッタリングを用いて多結晶の窒化スズ薄膜を作製し,成膜条件が諸物性に与える影響について検討した.本年度は,正方晶系の低温相に焦点をあて,構造を明らかにすることを目的とした. 高周波反応性スパッタリングにより作製した窒化スズ薄膜を,X線光電子分光法により表面組成分析した結果,15〜35at%の酸素が検出された.しかし,Arイオンエッチングにより深さ方向分析を行うと,試料内部では酸素が検出されなくなった.このことから,検出された酸素は,作製膜を大気暴露後にはじめて混入したものであり,成膜段階では高純度な窒化スズ薄膜が作製されていると考えられる.この表面酸素組成は,作製膜の結晶性,特にスズ-窒素間の結合の不完全性と強い相関があり,窒素と結合が形成されていないスズ原子に,大気中の酸素が結びつきやすいことを示すものであるといえる.表面酸素組成が最も低く,結晶性が良好であると考えられる窒化スズ薄膜において,スズと窒素の比は約1:1であり,窒素組成は化学両論組成よりもわずかに低かった. 作製膜の断面構造をSEMにより観察した.その結果,窒化スズ薄膜断面は,基板側と表面側で大きく構造が異なっており,基板側はほとんどテキスチャが認められない一方で,表面側は柱状構造が確認された.さまざまな膜厚の試料を作製し,X線回折プロファイルのX線入射角度依存性を調査した結果,基板側はアモルファス構造,表面側が多結晶構造であった.作製膜がこのような二層構造を有する原因は明らかでないが,窒化ボロン薄膜等で報告例があるように,窒化スズ多結晶の成長には,ある程度の厚さのアモルファスバッファ層が必要であることが考えられる.
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