研究概要 |
多くの植物において,病原菌の侵入に対して誘導される抗菌性物質(フィトアレキシン)の存在が知られている。ブドウに誘導されるフィトアレキシンとしてはリスベラトロールが知られており,リスベラトロールをより多く発現するブドウ品種ほど,灰色カビ病などの病害に対する抵抗性が高いことが報告されている。本研究では,強い耐病性を示すチベット産ブドウ野生種に着目し,そのリスベラトロール誘導量を耐病性の低い栽培種(シャルドネ)と比較した。さらに,リスベラトロール合成のキー酵素であるスチルベンシンターゼ遺伝子を両品種からクローニングし,その遺伝子発現を制御していると考えられるプロモーター領域の塩基配列を比較した。 野生種の発芽3ヵ月後の新梢のブドウの葉に誘導されるリスベラトロール量はシャルドネ種に比べて34.3倍,耐病性の高いルペストリス種と比べても4.8倍(ポジション1)大きかった。ブドウの葉の新梢における位置の違いによりリスベラトロール誘導量を比較すると,発芽3ヵ月目の枝ではポジション1,4,8の順,すなわち,葉齢が高いほどより多くのリスベラトロールが誘導された。オプティマ種の構造遺伝子の塩基配列をもとに設計したプライマーを用いてクローニングした野生種およびシャルドネ種のスチルベンシンターゼ構造遺伝子の上流部分のエクソン領域の塩基配列は両品種間で同一であった。シャルドネ,野生種ともに180bp付近から下流にイントロンが存在した。カッセト-カセットプライマー法によりクローニングしたスチルベンシンターゼ遺伝子上流域の塩基配列を決定した結果,野生種およびシャルドネ種ともに,開始コドンを含むスチルベンシンターゼ構造遺伝子の上流部分の塩基配列とプロモーターに共通に見られるTATAAboxが確認された。野生種とシャルドネのスチルベンシンターゼ遺伝子のプロモーター領域の相同率は97.3%であった。
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