研究概要 |
我々は,蛋白合成を阻害すると言われてきたコリシンDを大腸菌に作用させると,その菌体由来のRNA画分に低分子RNAが出現することを発見した.これを精製して配列決定すると,Argに対するmajorなtRNAがアンチコドンループで切断された5'側,および3'側断片であった.コリシンD処理大腸菌のRNA画分のアミノ酸受容活性を調べると,Argに対する活性のみが大きく損なわれていた.そこで,各種tRNAの3'側部分に相補的なDNAプローブを用意し,コリシンD処理菌のRNA画分をノザン解析すると,Argのmajor tRNAだけでなくminorなtRNAを含め計4種のアルギニンtRNAが特異的に切断されていた.さらに大腸菌の全tRNA画分に対してコリシンDを作用させ,同様にノザン解析すると,mojorなtRNA(ICGアンチコドン)とminorなtRNA(CCG)が切断されていた.さらにハイブリダイゼーションを利用してtRNA(ICG),tRNA(U*CU),tRNA(CCU)を精製し,コリシンDを作用させると,いずれもアンチコドンループ内の38/39位間が切断されており,コリシンDがin vivoでもin vitroでも4種のアルギニンtRNAを切断することを明らかにした.コリシンDのC末端付近の1箇所のHis変異で,殺菌活性とtRNA切断活性が同時に失われることを見出し,tRNA切断が殺菌活性の原因であることを明らかにした.これは我々がさきに見出したコリシンE5に続く第2のtRNAを標的とするトキシンである.しかし両者は分子レベルでの共通点が何もなく,進化と機能が興味深い.
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