研究代表者はこれまでに慢性関節リウマチ患者関節滑膜組織により得た滑膜細胞では、癌遺伝子産物の一つであるJun-D蛋白の発現が低下しており、このJun-D蛋白の発現低下が滑膜細胞の機能亢進をもたらすことを指摘した。そこで慢性関節リウマチ患者関節置換術時に得た滑膜組織より滑膜細胞株を樹立し、in vitro培養系を用いて滑膜細胞にJun-D遺伝子の導入を行いJun-D蛋白を過剰発現させた。その結果、Jun-D遺伝子導入滑膜細胞では転写因子AP-1活性が抑制され、滑膜細胞の増殖、炎症性サイトカインの産生、マトリックスメタロプロテイネースの産生が抑制されて、慢性関節リウマチの炎症病態が改善されることが示唆された。次にin vivoでの有用性を評価する目的で、サイトメガロウイルスプロモーターの下流にjun-D cDNAを挿入したベクターを作成して、コラーゲン誘発関節炎マウスにjun-D遺伝子の導入を行い、まず関節滑膜細胞にして至適なJun-D蛋白の発現を得るための基礎検討を行った。その結果、外来性に投与された遺伝子は、関節内投与よりむしろ経鼻投与によって関節内に効率よく発現することが判明した。現在、コラーゲン関節炎マウスにjun-D遺伝子を経鼻投与により導入してその発現の強度を検討しているが、予備成績では関節炎発症前の投与では関節炎の発症を抑制し、関節炎発症後の投与においても腫脹関節の著しい改善を認めた。今後さらに関節滑膜細胞に充分なJun-D蛋白の発現を得られる投与方法を確立し、関節炎の発症抑制効果や免疫系に対する効果を検討して、jun-D遺伝子導入による慢性関節リウマチの征圧をはかりたい。
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