本研究の目的は、膵癌の神経浸潤のin vitro浸潤実験モデルを確立しその分子機序を解明することであった。 1.膵癌の神経浸潤実験モデルのための、膵癌細胞と末梢神経細胞の共培養系の確立 1)in vitro浸潤実験モデル(基底膜マトリックスゲルを介した共培養):無血清培養しておいたヒト膵癌細胞Paca-2と、あらかじめ神経分化誘導した神経細胞PC12を24時間共培養した。分化誘導神経細胞との共培養において、膵癌細胞のin vitro浸潤能は、単独培養、未分化神経細胞との共培養に比較して、有意差をもって亢進した。 2)細胞増殖能の検定(神経細胞の調整培地を用いた共培養):未分化および分化誘導神経細胞の調整培地を無血清培地で希釈系列とし膵癌細胞に添加し、24時間後にMTTアッセイを行い膵癌細胞の増殖能を比較検討した。添加した分化誘導神経細胞の調整培地の用量依存症に、膵癌細胞の増殖能が亢進した。 以上により、ヒト膵癌細胞Paca-2と神経分化誘導したPC12の共培養が、膵癌の神経浸潤のin vitro浸潤実験モデルとして有用であることが示唆された。 2.共培養の際の膵癌細胞の細胞外マトリックス分解酵素MMPsの発現検討 1で認められた実験モデルにおいて、膵癌細胞の細胞外マトリックス分解酵素MMP-9の発現の発現が抑制されることが、Zymographyで示唆された。これによって、神経由来の因子によって変化する膵癌細胞発現系の簡便な指標としてMMP-9の発現を用いることができることが示唆された。 3.神経由来の膵癌細胞増殖(向神経)因子の同定 TGFβ、EGF受容体、NGFに対する抗体を上記の1.あるいは2.の実験系に添加し比較検討したが、in vitro浸潤能亢進の抑制あるいはMMP-9の発現抑制の阻止を認めなかった。したがって、新規の神経由来の膵癌細胞増殖(向神経)因子の関与が示唆された。
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