今回我々は、血管再生への新しい発生細胞学的アプローチとして血管構造をin vitro及びin vivoにおいて分化誘導・再構成することを目的とし、マウス胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)から血管内皮細胞(EC)及び血管周皮細胞(PEC:periendothelial cells、血管平滑筋細胞とペリサイト)の双方に分化することのできる新しい血管前駆細胞を同定し、同細胞を用いた血管発生モデルの開発を試みた。マウスES細胞をコラーゲンIVコートディッシュ上で培養した後、VEGF受容体の一つである、発生初期には中胚葉マーカーとも考えられるflk1の発現細胞を抗flk1抗体を用いたflow cytometryによりソーティング、純化した。このflk1陽性細胞を再培養し、EC及びPECへの分化及び管腔形成を内皮マーカー(flk1、PECAM1、VE-cadherin)及び平滑筋細胞(SMC)マーカー(平滑筋α-actin、PDGF-β受容体)を用いた免疫組織染色法により検討した。その結果、flk1陽性細胞は、内皮マーカー陽性細胞(ec^+)及びflk1陰性且つSMCマーカー陽性の細胞(smc^+)からなる細胞群にに変化した。flk1陽性細胞の無血清培養においては、VEGF存在下にec^+細胞が、PDGF-BB存在下にはsmc^+細胞がdominantに出現した。flk陽性細胞をコラーゲンIゲルを用いて3次元的に培養したところ、ec^+細胞による3次元的管腔形成と共に、smc^+細胞の管腔周囲へのassociationを認めた。以上、EC及びPECの双方が、単一のES由来flk1陽性細胞より分化しうることが初めて明らかになった。この細胞は、血管構成細胞の双方に分化することのできる血管前駆細胞と考えられる。血管前駆細胞を用いることによりPECの裏打ちを伴った、in vivoに近い血管発生モデルが構築された。現在、同細胞によるin vivoにおける血管新生について検討中である。
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