【背景、目的】 高脂血症薬として用いられているHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチンと略す)の虚血性心血管イベント減少効果が血清コレステロール低下だけでは説明できないことが示唆されている。そこで我々は「スタチンが生体内でコレステロール低下作用とは独立した機序を介して血管内皮型NO合成酵素(ecNOS)の発現を増加させ、血管壁の病的プロセスを抑制する」という仮説を検証した。実験には、スタチンを投与してもコレステロール値が低下しない実験動物(ラットあるいは、マウス)を用いた。 【結果】 1.正常動物におけるスタチンのecNOSに対する効果:正常ラット、マウスに生理的用量のスタチンを投与すると、ecNOS遺伝子発現増加、ecNOS蛋白発現増加、NO産生能増加が生じた。 2.スタチンのecNOS発現増強効果に対するRho阻害薬の効果:スタチンによるecNOS増強効果はメバロン酸の同時投与によって防止された。また、rho kinase阻害薬であるY27632投与によってecNOS発現や活性が増加した。したがって、スタチンによるecNOS発現増加は低分子G蛋白であるRhoを介して生じることが明かとなった。 3.慢性的NO産生抑制モデルの血管病変に対するスタチンの効果:我々はラットにNO合成阻害薬を投与すると3日後に動脈硬化性病変(単球・マクロファージの浸潤、転写因子nuclear factor kappa-B・AP-1活性の増加、ケモカインMCP-1の発現など)が生じることを報告した(J Clin Invest 1997、Arterioscler Thromb VB1998など)。スタチン投与は、これらの血管病変、遺伝子発現、転写因子活性を抑制した。 【総括】 これらの成績から、スタチンは生体レベルで内皮型ecNOS活性を増加させること、そのecNOS活性増強にはRhoが関与していること、内皮NO産生増強作用はNO産生抑制モデルの心血管病変を抑制すること、等が明かとなった。このような血管保護作用はコレステロール低下作用とは独立した作用であることが示唆された。この血管保護作用が心血管病変の減少に貢献する可能性がある。
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