研究概要 |
前年度に考案した多くの低LUMOエネルギー準位分子構造のうち,合成に成功した4-BrFPNの基礎評価の結果,速やかな脳移行性と低酸素細胞内での代謝トラップ反応の改善の可能性が示唆された。本年度は4-BrFPNについて,腫瘍マウスを用いたさらに詳細な体内動態と低酸素組織親和性の評価を行った。低酸素領域を拡大する事が知られるnitro-L-arginineを前投与した場合,腫瘍への放射能集積において20%〜40%の増大が見られ,選択性を示す腫瘍-筋肉比も投与後60分で約10%増大した。このことから4-Br18FPNは低酸素部位に取り込まれることが示唆された。 さらに放射能集積がニトロ基の生体内還元反応に基づくことを確認するため,ラジオHPLCおよびラジオTLCを用いたインビボ代謝反応の追跡をした結果,4-BrFPNは組織中で少なくとも2種類の代謝物に変化していることが明かとなった。腫瘍中の代謝物の割合は82%であり対称組織である筋肉中(65%)より高い割合を示したことから,4-BrFPNは腫瘍特異的な代謝を受けていることが示唆された。 以上のことから4-BrFPNは腫瘍への高い集積選択性は,腫瘍中の低酸素部位における特異的な代謝によるものである可能性が明かとなった。さらに本研究のようなニトロイミダゾール分子のLUMOエネルギー準位に注目したドラッグデザイン戦略の妥当性が示唆されたと考えている。 よりよいニトロイミダゾール化合物の分子デザインのための基礎情報を得るためには,LUMOエネルギー準位が低いだけでなく逆に高いと予想される分子についても評価を行っていく必要がある。
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