研究概要 |
【目的】本研究の目的は,軽度脳血管性痴呆(VD)患者および軽度アルツハイマー型痴呆(AD)患者において漢字熟語音読による病前IQ推定が可能であるか検討することである。【方法】DSM-IVの診断基準を満たし,専門病院において治療中のAD患者,VD患者に対し,漢字熟語音読課題100問,WAIS-R下位6検査(知識,絵画完成,数唱,単語,符号,類似),Mini-Mental State Examination(MMSE)を施行した。MMSE≧16である患者を軽度AD群(n=21,平均年齢78歳),VD群(n=16,平均年齢75歳)として選択した。対照群として,健常者(n=135,平均年齢48歳)のデータを用いた。3群のWAIS-RのIQおよび漢字音読結果をANOVAを用いて比較した。同時に健常者における漢字音読とIQとの相関を検討した。【結果】WAIS-RのIQでは,健常者(平均109.2±13.0)と軽度AD群(平均79.1±12.6)軽度VD群(79.3±14.8)の間で有意差がみられたが,漢字音読結果正答数では健常者(平均76.2±12.8)と軽度AD群(67.7±16.6)・VD群(69.4±21.2)との間に有意差はみられなかった。また健常者においては,音読正答数とIQとの間に高い相関(r=0.74,p<0.001)がみられた。【考察】漢字熟語音読能力は,WAIS-RのIQと比較して,軽度AD患者およびVD患者において保たれることが示された。また,健常者において漢字熟語音読とIQは強い相関がみられることから,軽度痴呆性患者において,漢字熟語音読は,病前IQを推定するよい手がかりになると考えられた。
|