研究概要 |
我々は細胞周期阻害因子p21が細胞質に発現することにより、アポトーシス阻害作用を発揮すること、.そのメカニズムとしてMAPKKKであるASK1が少なくとも1つの標的分子であることを昨年報告した(Asada et a1,EMBO J,1999)。今回我々は亜鉛誘導によらない恒常的に細胞質p21(DNLS-p21)を発現する新たなBaf3(IL-3依存性pro-B細胞株)およびU937細胞を樹立した。これらの細胞株を用いて、DNLS-p21と他の細胞周期制御因子との関係およびアポトーシス抵抗性について検討した。DNLS-p21はサイクリンD,E,AやCDK2と結合できたが、PCNAとは結合できなかった。L-3存在下ではモック細胞とDNLS-p21発現細胞のアポトーシス感受性に変化は見られなかったが、IL-3非存在下においては抗がん剤や酸化的ストレスによるアポトーシスに対してDNLS-p21発現細胞は有意に抵抗性を獲得していた。酸化的ストレスの際、アポトーシス特異的なMAPキナーゼ経路の活性化も抑制していた。以上の結果より、細胞質p21は単球系のみならずリンパ球系の細胞においてもアポトーシス阻害作用があることが判明した。このシステムは、アポトーシス特異的MAPキナーゼ経路の標的分子の同定の有用な手段となるのではないか、と考える。 単球の分化の過程でどのようにしてp21が細胞質に発現するようになるのか。今年我々はこのヒントをつかんだ。p21の核内移行シグナルを含むGFP融合蛋白を単球系前駆細胞WEHI3BD+に発現させたところ、GFPのシグナルは核にのみ見られた。この細胞をビタミンD3で分化誘導するとGFPのシグナルが核のみではなく細胞質にも見られるようになった。この結果から単球への分化に伴ってp21の核移行シグナルをモジュレートする分子が発現してくるのではないかと考えられた。今後、この分子の同定をする予定である。
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