研究概要 |
新生児期齧歯類の視覚系においては,マウスの視細胞,神経節細胞,アマクリン細胞やハムスターの上丘二ューロンなど広い範囲にわたって生後1週の間に神経細胞死(アポトーシス)が顕著にみられることが報告されている。我々は,新生児期のアポトーシスの誘導機構を明らかにするための研究を行った。まず,外界からの光刺激が新生児期視覚系のアポトーシスを誘導しているのではないかと考え,その証明のため,完全暗室内で出産・発育させたマウス新生児視覚系におけるアポトーシスの発生を,TUNEL法を用いて,通常の条件下(L:D=12h:12h,点灯時 200-250lx)で飼育したものと比較した。対照群では網膜神経節細胞,および上丘において,P1(出生1日後,出生日をP0とする)を最大として出生後アポトーシス細胞の著明な増加がみられたのに対し,暗室群ではこの間に増加はほとんどみられなかった。一方,聴覚系に属する下丘では暗室群,対照群とも同等のアポトーシス細胞の増加がみられた。また,暗室中で1週間飼育した新生児は,その後通常条件下に移してもアポトーシス細胞の増加は観察されなかった。以上の結果は,生理的なレベルの光刺激によって,マウス新生児視覚系にアポトーシスが誘導されること,また,生後一定の時期を過ぎるとたとえアポトーシスの阻害によって余分な細胞が残っていても,もはやアポトーシスは誘導されないこと,すなわち臨界期の存在を示している。齧歯類新生児の視覚系はきわめて未発達であるにもかかわらず,光刺激を感受することは興味深い。おそらく新生児期のアポトーシスは神経系の正常な発達に関与しているものと思われる。
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