研究概要 |
下唇をクリップ式刺激装置による電気刺激で得られる三叉神経誘発電位は正常波形として(Brussels国際シンポジウムの方法に従い)N3,P9,N13,P20,N25,P35の各ピークが得られる.口唇から大脳皮質への潜時理論値は三叉神経伝達速度,シナプス遅延,橋から皮質への伝導時間より8.9〜12.4msecであり,またN13の成分は三叉神経第1次感覚皮質由来の電位といわれており,N13は末梢の知覚異常を評価するにあたって重要な成分の1つであると考えられる.実際臨床においても下唇知覚麻痺を訴える患者に対する三叉神経誘発電位はN13以降の波形消失が認められる. 本研究において顎変形症術後に口唇知覚異常,特に下唇知覚麻痺を訴えた患者に対する三叉神経誘発電位は完全麻痺の場合はN13以降の波形消失が認められ,部分的な知覚異常の場合はN13,P20の消失,平坦化またはN13の潜時の遅延が認められた.これらの変化は臨床症状の回復に一致しN13,P20の消失,平坦化またはN13の潜時の遅延が正常化することより,N13,P20の波形,潜時が知覚異常のパラメターとなり(振幅に関しては再現性などで有意な差を認めなかった),三叉神経誘発電位が下唇麻痺を客観的に評価できる有利手段であることが示唆された. 感覚異常の急性モデルとして下顎孔伝達麻酔により三叉神経の分枝である下歯槽神経をブロックして得られた三叉神経誘発電位も顎変形症術後で得られたデータを裏付ける結果であった. しかし顎変形症術後や下顎孔伝達麻酔後に三叉神経誘発電位は正常波形を示すが知覚異常を訴える症例もあり三叉神経誘発電位が下唇の感覚異常をすべて検出可能であるとは言えなかった.
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