本研究では、身体運動時のエナジェティクスに関する最大運動をめぐる問題に焦点を当て、運動者側に立った最大運動を理論的に明らかにしようというものである。この分野に関する実験的資料を数多く収集し、MargariaモデルをもとにATP-CP系、乳酸生成系およびTCAサイクル系の3つのエネルギー生成系を非線形システムで記述することを試みた。 その結果、変数が8個からなる非線形微分方程式で表すことに成功したが、身体運動は単なる刺激-応答という受動的構造でないため、エナジェティクスモデルに対して何らかの運動者側のコントロールは必要である。しかし、運動者側のエネルギー生成系に対するコントロールそのものをモデル化することはほとんど不可能であるという結論が、本研究での限界であった。その中で、運動者自身が有しているエネルギー生成系能力を最大限に利用しようとするという「最大運動」の場合に限っては、最適制御理論を適用することで、ある程度そのコントロール状態を記述し得るものと推測された。この場合のコントロール状態というのは、ATP-CP系と乳酸生成系の2つの系に適用され、TCAサイクル系はそれらの状態から必然的に引き出される系であると結論づけられた。このような結果は、過去の数多くの実験的成果を裏付けるものであった。 しかしながら、実際の身体運動における最大運動は運動形態によって駆動する筋が大きく変化するので、本モデルで提示したような仮説の検証は非常に困難であることが示唆され、今後は仮説検証につながる研究の必要性がある。さらに、不十分であった乳酸回復系や脂質系などのエネルギー生成系を含んだエナジェティクスモデルの構築ということも課題である。
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