本研究の目的は、細胞間分子認識や独特の生理活性を示すキー化合物として注目を集めている糖脂質の人工モデル化合物の簡便で柔軟な合成方法を確立することであった。天然に存在する糖脂質群は、脂質疎水部を含めて非常に多様な分子構造をしているために、現象論的な諸発見が構造・機能相関といった基本的な原理の確立につながりにくい。多様な生理活性に必要不可欠な構造、またその活性の物理化学的な本質は何か?といった基礎的なことが未解明のままである。そのような疑問に答える基礎研究を展開するために、構造多様な糖脂質群を純粋に合成して提供する有機化学的手法が強く求められている。ここでは脂質疎水部の構造を含め複雑で多岐にわたる糖構造を基本的に同一原理の合成手法で脂質に導入できるコンビナトリアルライブラリー的な新手法の開発を目指し、モジュール組み合わせ法が有効であることを実証した。また、この合成法を固相法にまで拡張して、人工糖脂質ライブラリーを得ることに成功した。得られた人工糖脂質の会合体挙動や界・表面物性などの特性を物理化学的手法を駆使して詳細に検討し、親水部糖鎖構造と集合体特性との相関、糖部分だけでなく脂質疎水部の集合形態に与える影響などの基礎的で総合的な知見を集積した。
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