研究課題
特別研究員奨励費
我々は0'Farrell氏と共同で重い電子系新物質β-YbAIB4に実現する非従来型の量子相転移に着目し、その発現機構の理解を目指した量子輸送現象の解明を本研究の目的としてきた。そこで、β-YbAB_4のホール効果を測定したところ、T=40Kで明瞭な最小値を示すことを明らかにした。その温度は電気抵抗に観測された近藤コヒーレンスが発達し始める温度(7=250K)とは異なる。つまり40Kと250Kという二つのコヒーレンス温度が存在することを示唆する。広い温度領域における詳細な磁場依存性の解析の結果、この挙動は伝導電子とf電子の強い異方的な混成効果からくると考えられる二つの要素を仮定したモデルで理解できる。より低温領域(10K以下)で、ρ_<xy>に強い温度依存性が現れることを明らかにした。β-YbAB_4は量子臨界点近傍に位置することから、それによるスピンと電荷の揺らぎからくる散乱効果がこの強い温度依存性をもたらしていると考えられる。自由エネルギーのスケーリングからこの物質では量子臨界現象が発達する磁場・温度領域が定義されているが、その量子臨界領域においてp_<xy>が172に従う挙動を観測した。この温度依存性や磁場依存性はキャリア密度のみに基づいた正常ホール効果の範疇を超え、新しい機構を強く示唆する。β-YbAIB_4と類似構造を有し、その基底状態がフェルミ液体であるα-YbAB_4に対して磁場中での電気抵抗測定を行った。過去の磁化測定からα-YbAB_4は約3Tで磁化過程M(H)に異常が現れることが知られているが、今回、3.3T以上で明瞭な量子振動が発達することを見出した。これは3.3Tを境に、別の何らかの変化に伴い、フェルミ面がわずかに再構成されることを示唆する。加えて、様々な磁場中での電気抵抗の温度依存性を測定したところ、その磁場でのみフェルミ液体性が抑えられることを明らかにした。これは磁気秩序を伴わないことから、磁気揺らぎによらない全く新しい磁場誘起の量子臨界現象であることがわかってきた。
1: 当初の計画以上に進展している
対象とするYbA1B4の高純度試料を育成し、その量子臨界現象の解明を目的としてきたが、実際に、高純度試料の準備に成功し、ホール効果や、量子振動現象の測定から、この物質特有の新しい量子臨界現象の特性を明らかにすることができた。また、それのみならず、新しいタイプの量子臨界現象を磁場中で発見することにも成功した。また、その一部はすでにPhysical Review Letters誌に掲載されている。今後、未発表の結果についても随時、学術論文として報告する予定である。
量子臨界物質beta-YbA1B4については、今後、圧力下の量子臨界相の可能性について、より詳細を明らかにすべく、磁化測定などの熱力学量の測定を実施し、自由エネルギーの観点からその安定性の議論につなげる。また、磁場中での量子臨界現象が見出されたalpha-YbA1B4については、磁気揺らぎとは関係のない新しい量子臨界点の可能性が高く、価数の直接計測を含めて、その起源の解明を目指した、多角的な測定を実施する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (24件)
Phys. Rev. B
巻: 85 号: 24
10.1103/physrevb.85.245109
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