研究概要 |
イオン液体に多糖やタンパク質などの生体高分子を溶解させることや,イオン液体中における脂質分子の集合挙動を明らかにすることは,新しいソフトマテリアルを開発する上で重要である.また,イオン液体自身に誘電性や光応答性などの機能を積極的に付与することも重要である. 本研究は,(1)イオン液体に双極子性官能基を導入し,その緩和現象を明らかにすること,さらに(2)アゾベンゼン部位を有する界面活性剤(Azo1)の集合特性とイオン液体の物理化学的な性質との相関を明らかにすることを目的とした. C_2OSO_3,C_8OSO_3,(CN)_2Nなどの対アニオンを有するイミダゾリウム系のイオン液体を用い,これらの誘電特性を評価した.ラビング処理を施した液晶セルにこれらのイオン液体を入れ,分極ヒステリシス測定を行った.興味深いことに,幾つかのイオン液体が強誘電ヒステリシスを与えることを見出した.これは交流電場によってイオン液体分子が電極間に誘電配向したことを意味し,新しい強誘電性ソフトマテリアルの設計指針となる極めて重要な発見である. イオン液体として[C_2mim][C_2OSO_3]を用い,水との混合溶媒系におけるAzo1の自己集合特性とサーモクロミズムについて検討した.動的光散乱測定と光学・電子顕微鏡観察により,Azo1は結晶性の二分子膜構造を形成し,混合溶媒中に分散することが示された.また,電子吸収スペクトルとゼータ電位測定から,温度によってイミダゾリウムカチオンとAzo1との相互作用が変化し,それに伴ってナノ集合体におけるAzo1の分子配向が変化することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初,イオン液体に緑色蛍光タンパク質(GFP)などの生体高分子を溶解させ,新しいソフトマテリアルを開発することを目的とした.そのため,まずイオン液体に大きな双極子を有する対アニオンを導入し,そのダイナミズム,誘電応答性と分子構造の相関について検討を開始した.その中で,これまでに類例のない強誘電ヒステリシスを示すイオン液体を見出した.これは交付申請書よりも国際的に波及効果の高い研究に結びつく可能性が極めて高い.このことより、当初の計画以上に進展していると判断できる.
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