研究概要 |
本年度は、炭素以外の元素を含む有機-無機ハイブリッド系について対象とし、量子化学の理論と計算に基づいて大きな超分極率を有する機能性分子の設計に取り組んだ。ここではホウ素原子からなる籠型形状をもったデカボラン(B_<10>H_<14>)とその誘導体(閉殻系)の三次NLO応答について、DFT計算に基づく理論解析を行った。実験的にも可能な誘導体として、デカボランの6,9位を置換した分子を設計した。この系はV字型形状を有しており、そのため超分極率テンソルの対角成分だけでなく非対角成分も大きくなると考えられる。これにより、異方性の大きなNLO特性を示すと期待され、従来のdonor-π-acceptor (D-π-A)型のNLO分子に比べて実際の応用的側面からも利点がある。 6,9位に結合した水素を窒素原子に置換することで、6,9位のホウ素の空のp軌道に孤立電子からの電子供与が起こる。この電子構造の変化により、V字のアーム部分の成す角が変化した構造に変化する。この構造変化に起因して、NLO特性の異方性がさらに増大することが明らかになった。このような種々の元素の電子構造の違いを利用し、母骨格と置換基の組み合わせにより電子・幾何構造を変化させ、NLO物性の異方性を制御する試みは、化学、物理を始めとする広範な物質科学の研究者に対して大きなインパクトを与えると期待される。この研究についての結果は無機化学分野のトップレベル学術誌であるDalton Transactionsに投稿し公表した。 また、研究期間内に取り組んできたフラーレン系を含む開殻カーボンナノマテリアル系の非線形光学特性に関する研究内容を取りまとめ、著書として共著で執筆した(CRC Press)。
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