研究概要 |
<背景と目的>本研究では、アルギン酸などの酸性多糖から生じる不飽和ウロン酸(α-ケト酸)を基質として、異なる補酵素特異性を示す細菌由来α-ケト酸還元酵素(A1-RやKduDなど)の構造機能相関を解析することにより、補酵素要求性を決定する構造要因の解明を目的とする。また、還元酵素における補酵素要求性の相違が、細菌における酸性多糖の代謝に及ぼす生理的意義について理解を深める。 <結果と考察>Spinhgemonas, 属細菌A1株において、NADPH要求性A1-Rの機能を低下させた変異株を作製した。本変異株の性状解析より、A1-Rとは異なる新規なα-ケト酸還元酵素(Al-R')の存在が示唆された。そこでA1株細胞抽出液より7種類のカラムクロマトグラフィーを用いてA1-R'を精製した。N末端シーケンスとA1株ゲノムデータベースより、本酵素の遺伝子(ID ; sph1210)を同定した。Al-RとA1-R'は一次構造上高い相同性(64%)を示し、それらの酵素学的特性は補酵素要求性を除いて類似していた。A1-R'はA1-Rと異なり、NADH要求性を示した。A1-R'の発現・精製系を確立し、X線結晶構造解析を行い、補酵素との複合体(A1-R'/NAD^+)の立体構造を明らかにした。A1-RとA1-R'の補酵素結合部位を比較したところ、補酵素のヌクレオシドリボース2'位のリン酸基周辺に相違が認められた。A1-Rと異なり、A1-R'は負電荷を帯び、結合部位の空間が狭くなっていた。これらの相違を生み出す残基は、5残基と7残基からなる二本のループ上に存在していた。この二本のループの役割を明らかにするため、二本のループを交換したA1-R'変異体を作製し、その速度パラメーターを決定した。その結果、得られた変異体は、強い活性を保ったまま補酵素要求性のみが変換されていた(NADH→NADPH)。以上より、α-ケト酸還元酵素において、二本のループの特性が補酵素要求性を決定していることを明らかにした。A1株は補酵素要求性の異なる二種類のα-ケト酸還元酵素を用いることで、補酵素バランスの変動にかかわらず、α-ケト酸を速やかに代謝することができると考えられる。
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