研究概要 |
本研究は,ノースリッジ地震や兵庫県南部地震で多くの鋼構造物に発生し問題となった地震時脆性破壊の発生メカニズムを明確にし,破壊の制御手法の構築を目指すものである.本年は,2ヶ年計画の1年目として,破壊発生メカニズムを明確にすべく,主として脆性破壊移行時の限界状態を実験的,解析的に詳しく検討した. 検討に際しては,材料特性のばらつきの影響を受けやすい脆性破壊の性質から多くの実験サンプル数が求められたことから,実構造物の脆性破壊発生起点における地震時の負荷状態を再現し得る小型な供試体を設計し,その載荷条件も検討した.その結果,中央に位置する切欠きに疲労亀裂を導入した板状の供試体を4点曲げ載荷することで,実構造物破壊起点の負荷状態が再現できることがわかった. 実験は,地震時の繰返しひずみ履歴による破壊じん性の劣化,ならびに動的負荷の影響を2パターン考慮して,2つの異なる温度で実施することとした.液体窒素中(約-197℃)と低温エタノール中(約-100℃)で,それぞれで15体程度(予め導入する疲労亀裂の深さが異なる)の供試体の破壊実験を実施し,それぞれの限界荷重を計測した.さらに,各供試体の限界荷重に達した際の亀裂先端負荷を把握するため,供試体をソリッド要素で再現したFEMモデルを用いて,各供試体の大変形弾塑性解析を行った.解析結果に基づき,浅い亀裂からの脆性破壊移行限界に与える鋼材の破壊じん性の影響を,亀裂先端のピーク最大主応力,ワイブル応力,応力三軸度によって脆性破壊移行限界の評価したところ,亀裂先端の拘束度を表す応力三軸度が,破壊じん性が幾分高い(地震時のひずみ履歴による劣化が小さい)場合,大きな値となっており,じん性が確保された材料では亀裂先端に高い拘束が発生するまで脆性破壊への移行が遅延されることを定量的に示す足がかりを得た.
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