研究概要 |
概日リズムは、様々な生命活動の周期を外界の日周期に適応させ維持する機構である。この機構は分子時計と呼ばれる転写-翻訳を介したネガティブフィードバックループにより細胞自律的に維持されている。分子時計においてCLOCK/BMAL1二量体は時計標的遺伝子の転写を活性化する。標的遺伝子の1つであるPer2は翻訳後CLOCK/BMAL1の転写能を抑制する。この転写の活性化と抑制が約24時間周期で起こることで、時計標的遺伝子の発現に日周性を与えている。現在までに分子時計の主要な構成因子は同定されているが、分子時計の約24時間の周期性を維持する機構については不明な点が多く残されている。ストレス応答性リン酸化酵素MKK7は、下流のJNKをリン酸化し活性化することで細胞死や細胞増殖等を制御する。私はこのMKK7が概日リズムの周期制御に必須であることを、見出し発表した(Uchida Y et al. Journal of Biological Chemistry, 2012)。 当該年度においては、MKK7の欠損が中枢時計制御にも影響するか否かを、神経特異的MKK7欠損マウスを用いて検討した。Synapsin-Cre, Mkk7 floxedマウスを14日間12時間-12時間の明暗周期で飼育し、その後恒暗条件で飼育した際の行動量の変化を解析した。χ二乗解析により行動量の周期を解析した結果、Mkk7の神経特異的欠損は、マウスの行動のリズム性を顕著に減弱させることを見出した。 MKK7の全身性欠損マウス及びNestin-Cre, Mkk7 floxedマウスは致死となるが、本研究ではSynapsin-Creマウスを用いMKK7の神経細胞特異的欠損マウスを作出することで、MKK7-JNKシグナル経路の成体における機能解析に成功した。MKK7神経細胞特異的欠損マウスがコントロールマウスに比べてリズム性の低下を示したことから、中枢時計制御においてもMKK7が重要な機能を担うことが明らかとなった。
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