本研究では、コーギー犬(WCP)で組織球性肉腫が多発する原因を調べるため、まず国内のWCP犬における過去3年間の組織球性肉腫の発生状況を調査し、特に頭蓋内と肺に好発することを明らかにした。そのため、WCP犬は組織球性肉腫罹愚リスクに関連するゲノム・遺伝子群に特有のSNP(一塩基多型)を有していると予想し、組織球性肉腫罹患症例3例および健常症例1例について、次世代シークエンサーにより全ゲノム配列を決定して、罹患症例に特有のSNPの有無を明らかにした。すなわち、罹患症例の全エクソン領域で共通してみられるSNPを検出し、さらに腫瘍組織の網羅的遺伝子発現解析により、実際の腫瘍細胞で発現している遺伝子群に関連するSNPを抽出した。これらのSNPから特に遺伝子機能への影響が大きいSNPのみを選択した。その結果、罹患症例ではBone marrow kinase gene on X chromosome(BMX)遺伝子のエクソン8のSNPにより、第237番アミノ酸がAlaからThrへと変異し、同タンパク質のSH3様ドメインの構造が変化していることが明らかになった。BMXはJAK-STATシグナル経路を活性化し、ヒトでは様々な腫瘍の病理発生に関与している。BMX遺伝子は組織球性肉腫の腫瘍細胞でも有意に発現していることが確認されたことから、本腫瘍の病理発生に関与している可能性は高いと考えた。以上の結果から、WCP犬においてBMX遺伝子のエクソン8に存在するSNPを検出することは、組織球性肉腫罹患リスクを予測するうえで有用と考えられた。この内容について、現在科学論文として公表を準備している。
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