・研究内容本研究の対象であるアーダルベルト・シュティフター(Adalbert Stifter1805-1868)は文学作品の創作とともに非常に多くの文芸論的エッセイや書簡を残したことで知られる。2000年以降のシュティフター研究において、作品と平行してこれらのサブテキストの役割やその歴史的背景に新たな光を当てる試みが行われてきた。それは現在まで刊行が続く、アーダルベルト・シュティフターの新全集の事業と機を一にした動向とも言える。なぜならこれら新全集においてはシュティフターの手書き原稿の綿密な校正と注解をこれまで以上に歴史的なコンテキストに忠実に徹底することを意図したものであり、必然的に作品内在的な解釈のみでは明らかにならかなったシュティフター作品の広大な文化史的コンテキストと作品との関係が問われるようになったからである。 ・研究意義・重要性本研究はこうした動向を踏まえた上で、シュティフターの創作論を一つのフレームワークとし代表作『晩夏』に内包された広大な博物学誌的体系性の性格を分析するものである。とりわけ自然と芸術の経験における象徴的理解の生成という問題を、シュティフターの美の思想との関わりから明らかにせんとするものである。このような関心にしたがって、広島芸術学会における査読論文においては「崇高」というテーマから、シュティフターの自然観と美学を、日本独文学会秋季例会、および美学会西部会におい『晩夏』における中心的な主題である「愛」の理想化と美の観念との機能連関をそれぞれ異なる観点から明らかにした。
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