研究課題
特別研究員奨励費
今年度は前年度にひき続き、フェムト秒分解誘導ラマン分光(FSRS)測定の実現が期待できる反応系として選定したジスルフィド化合物の光解離・再結合反応ダイナミクスについて、過渡吸収分光法で調べた。粘度の高いエチレングリコールやイオン液体中においては、光解離ラジカルは速い時間で吸光度の大きな減少を示し、溶媒のかご効果によるラジカルのgeminate再結合が促進されていることが分かった。しかし粘度の大きく異なるイオン液体間でラジカルの量子収率の差がほとんどないことから、粘度によるかご効果はある程度において飽和するということがわかった。このようなダイナミクスの初期過程を、CollinsとKimballによる拡散律速モデルに基づいて解析した。geminate再結合の速度定数は溶媒によらず一定という仮定のもとで評価したイオン液体中の溶質の拡散係数は、SE則から予測された値よりも2から3倍大きかった。したがってイオン液体中の溶媒かご中において光解離ラジカルはSE則よりも速く拡散し、その結果再結合が促進されると考えられる。DMAPTラジカルの溶媒和ダイナミクスはクマリン153のような分子と同様、再結合過程に先行する速い成分が確認された。イオン液体中でのこのようなダイナミクスは溶媒の慣性的な運動に起因するものと考えられており、このような溶媒和が光解離ラジカルペアの周りに慣性的な運動で凝集することによって再結合が促進されていると考えられる。上記の反応系を誘導ラマン測定に適用するに当たり、昨年度に構築したFSRS測定システムの改良に取り組んだ。光路を整備し、光路長が0.5mmと短いセルを用いることによって、ラマンシグナルののS/Nを向上させることに成功し、以前は溶媒の信号に比べ弱かったメタノール中におけるpNAの振動モードの、強いラマンシグナルを観測することができた。また、アクチニックポンプを光学遅延をかけて入射することにより、振動モードの強度が変化していく様子を確認することができた。
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