平成24年度の研究は、「他性」という研究テーマの核心に迫る論文「不透過なもののく聴き取り〉」を『モルフォロギア』第34号(勤草書房)に掲載した他、以前から取り組んでいたベンヤミンのカール・クラウス論について岩波書店発行の『思想』に論文「デーモンの不平、デーモンの使命」を発表するなど、充実したものだった。前者では、「他者」「他性」に対するベンヤミンの態度を明らかにし、後者においては、他者性を欠いた観念的言語へのベンヤミンとクラウスの批判的姿勢を論じた。どちらの成果もベンヤミン研究を深化させると同時に、その枠を広げる視野を提示しえるものとして評価されている。特に後者は、ベンヤミン、クラウスの研究を通じて、現代のアクチュアルな課題を浮き彫りにする論考として注目された。また、同じく『思想』誌に掲載された、クラウスの非常に難解なテクストの翻訳(「奴らの大事なもの」「自分の巣を汚す鳥」)も、これまで知られなかったクラウスの新たな側面を提示ずるものとして高く評価されている。本年度は、以上多岐に渡る研究で開かれた視野のもと、自身の研究テーマを、「他者」へのベンヤミンの哀悼のあり方を論じた「ベンヤミンのソネット」においてさらに深化させ、その完成に向けて大きく前進することができた。さらに、こうした自身の研究成果を踏まえつつ、日本独文学会発行の『独文学』に掲載されたベンヤミン研究関連書籍の書評(「近年のW・ベンヤミン受容―そのアクチュアリティー」)において、近年のベンヤミン研究動向を分析、評価すると同時に今後の課題を提示した。
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