研究概要 |
本年度は,清浄及び酸素吸着銀(111)表面上での水素分子のオルソ・パラ転換に関して研究を行った.まず,ファン・デル・ワールス力補正項を取り入れた密度汎関数理論に基づく第一原理電子状態計算を援用し,清浄銀(111)表面上での水素分子の物理吸着状態について詳細に調査した.水素分子の6次元の自由度を考慮したポテンシャルエネルギー表面を得,その結果,水素分子は清浄銀(111)表面上では自由に面内方向へ拡散できるということを明らかにした.また,水素分子の回転に対するポテンシャルの異方性が8meV程度存在しているということを明らかにした.その後,清浄銀(111)表面上での束縛回転によるオルソ・パラ転換の加速の起源を明らかにした.さらに,水素分子のオルソ・パラ転換に伴う回転エネルギーの散逸経路に着目した研究を行い,表面電子系へ回転エネルギーが散逸しているということを見出した.また,不純物分子として酸素分子を取り扱い,銀(111)表面上へ共吸着した酸素分子による反応性変化に関する研究を行った.まず,ファン・デル・ワールス力補正項を取り入れた密度汎関数理論に基づく第一原理電子状態計算を援用し,清浄銀(111)表面上の場合と比べ,酸素分子近傍では水素分子の吸着エネルギーが大きいということを明らかにした.さらに,前年度に得た知見である酸素分子近傍での水素分子のオルソ・パラ転換時間とあわせ,水素分子の拡散を考慮した水素分子のオルソ・パラ転換モデルを明らかにした.さらに,銀(111)表面上の0.5ML酸素原子超構造に発現する強磁性状態の安定性に関して詳細に調べ,室温程度まで強磁性状態が存在しうるということを見出した.これらの成果を,Joumal of the Physical Society of Japan,Vol.82,pp.023601等の3編の論文にまとめ出版し,International Symposium on Metal-Hydrogen System-Fundamentals and Applications-等3つの国際会議と5つの国内会議にて発表した.また,日本真空学会第21回真空進歩賞を受賞した.
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