本年度は、まず、19世紀前半のドイツにおける立憲主義を古典的共和主義的な言説への着目という新たな視角から分析した論考の書評論文を執筆した。ロテックら当時のドイツ初期立憲主義者たちを、ポーコック以降の共和主義研究の成果を踏まえ再解釈したノルテの試みを紹介する本稿は、英米圏に対象が偏重している今日の共和主義研究の可能性を広げるとともに、中欧の初期立憲主義の成立をヨーロッパが広く共有する共和主義的伝統の系譜に位置づけることで、ドイツの後進性と特殊性とを強調する「特有の途」論とは異なるドイツ史の視座を提示する作業の基盤を提供するものと思われる。加えて、ドイツ初期立憲主義の源流を探るという問題関心から、大陸ヨーロッパの立憲政治に開始を告げたフランス革命期の憲法理論の研究に従事し、京都大学人文科学研究所の共同研究「啓蒙とフランス革命1・1793年の研究」において恐怖政治期のテキストを講読するとともに、詳細な検討がなされないまま「ブルジョワ的」「反動的」と形容されてきた1795年憲法の制定者たちが、独創的な「共和主義的両院制」を設計していた点を見出した。さらに、日本における近代立憲主義思想の受容史への関心から丸山眞男の憲法思想を研究に着手し、東京女子大学丸山文庫の調査を継続的に実施した。
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