年度途中における所属の変更があったため、コバルト酸化物に関する研究は研究環境の整備が間に合わず、実行まで至らなかった。そこでもう一方の研究目的であったコバルトニクタイドに研究を集中して行った。その結果、コバルト砒化物であるSrCo_2As_2およびSr_2ScO_3CoAsの合成に成功した。これらの物質のCoAs面間距離はこれまで研究して来たLaCoAsOに比べてSrCo_2As_2では短く、Sr_2ScO_3CoAsでは約2倍と長い。一般的にハイゼンベルグ・モデルにおいて磁気秩序が実現するには三次元的な相互作用が働く必要があり、純粋な二次元では磁気秩序が実現しない。今回研究した層状化合物では積層面内で比較的強い相互作用が働く一方で、面間の相互作用は面間距離に依存し、近いほど磁気秩序に有利であると考えられる。しかし、磁化測定の結果、SrCO_2As_2では磁気秩序が低温まで見られず、磁気的なパラメータからも強磁性に近い金属であることが分かった。一方で、Sr_2ScO_3CoAsではLaCoAsOとほぼ同じ温度(約60K)において強磁性転移が観測された。今回の結果から二つの点が推測される。一つは、Sr_2ScO_3CoAsとLaCoAsOが良く似た強磁性秩序を示すことから、面間距離はLaCoAsOで十分はなれており、面間距離とは無関係に強磁性秩序のパラメータが決まっている。もう一つは、SrCo_2As_2は他の二つの物質とは電子状態が異なっており、単純に比較できない点である。前者に関しては、遍歴電子系においても磁気秩序に次元性が重要であるはずなので、何らかの方法で非二次元性を得ていると考えられる。そのメカニズムの解明が重要であるが、今年度の研究では解明に至らなかった。後者に関しては、SrCo_2As_2を含む122系化合物は先に揚げた他の二つの物質と比べて特異な電子状態にある可能性がある。関連物質であるSrCo_2P_2において最近、二段階の遍歴電子メタ磁性転移が観測されており、特異な電子状態の現れた例であると考えられる。この点に関しても本研究内で解明には至らなかったが、先の非二次元性の問題も含めて遍歴電子強磁性の研究において解決すべき課題である。
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