研究課題
特別研究員奨励費
森林における炭素配分、つまり「光合成により獲得した炭素をどの様に利用するか」という情報は、森林の炭素収支を理解する上で必要である。施肥や灌概が炭素配分に与える影響に関する研究は数多くある一方、間伐に関する炭素配分の研究は皆無である。間伐は炭素収支に影響を与えることが報告されているため、森林施業を考慮した将来予測などのモデル構築の際、炭素配分の情報が必要不可欠であると考えられる。したがって、本研究の目的は、スギ・ヒノキ人工林において、間伐が炭素配分に与える影響を評価することである。日本の森林は山岳地域が多く、本試験地の人工林も、植栽されている場所によって傾斜が異なり、斜面上部では成長が悪く、斜面下部では成長が良いといった、空間変動が大きな場所である。したがって、日本において森林全体を評価するには、地形の影響を評価することが、必要不可欠であると考えられる。本研究ではまず、地形が炭素配分に与える影響を明らかにすることを目的とした。本試験地の樹液流速度、土壌呼吸速度、リターフォール量などのデータを斜面上部と下部で比較することにより、斜面上部では光合成により獲得できる炭素が少なく、また、地下部に炭素をより多く配分しているため、地上部に配分する炭素が少なくなり、成長が遅くなっていることが示唆された。両プロットにおける生葉とリターフォール中のリン濃度を調べたところ、両方とも尾根部の方がリン濃度が低かった。したがって、斜面上部ではリン制限状態が大きく、それが地下部の競争を激化させて炭素配分の違いを生じさせた原因であることが明らかとなった。2012年1-3月にかけて、本試験地において本数あたり50%の間伐が実施された。間伐実施が予定よりも1年遅くなったために、本研究では間伐前と同じようなデータを取得することが出来なかった。しかしながら、樹液流速度のデータは、期間限定的に取得することができたので、間伐前後において蒸散量がどの様に変化するかを本研究では明らかにした。間伐前後で、単木の樹液流速度を比較したところ、日射と樹液流速度の関係に有意な差は見られなかった。蒸散量は、単木蒸散量と辺材面積の積で推定される。辺材面積は、間伐前後でLPでは35%、UPでは33%の減少率であったことより、蒸散量は辺材面積減少分(33-35%)しか減少していないと考えられた。つまり、間伐前後における蒸散量およびGPPの変化は、辺材面積の減少率が重要であることが示唆された。
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Journal of Plant Research
巻: (印刷中) 号: 4 ページ: 505-515
10.1007/s10265-012-0544-0
Biotropica
巻: 44 号: 6 ページ: 715-719
10.1111/j.1744-7429.2012.00907.x