研究概要 |
本年度は, 一般の超ケーラー商の非コンパクト性について研究した. 超ケーラー多様体は非常に豊かな性質を持つ半面, 例の構成が非常に難しい. 特に, コンパクトな場合はほとんど例が知られていないが, 非コンパクトな場合は超ケーラー商構成法によって系統的に例を構成できることが知られている. 超ケーラー商とは, シンプレクティック幾何学におけるシンプレクティック商の, 超ケーラー幾何での類似物だが, 両者の特徴で異なる部分が一つある. それは, シンプレクティック商はコンパクトなシンプレクティック多様体と, 非コンパクトなシンプレクティック多様体の両方を大量に構成できるのに対し, 非自明な超ケーラー商として構成されるものは, 知られている限り全て非コンパクトとなってしまうことである. そこで, 「任意の超ケーラー商は非コンパクトである」という命題が真となるかどうか, という問題が自然に出るが, この命題は以下の理由から偽であることがわかる. そもそも超ケーラー商とは, 群作用と超ケーラー運動量写像を持った超ケーラー多様体が与えられたときに, 超ケーラー運動量写像のレベルセットの商空間として定義される空間である. そこで, 最初に与えるデータとして, コンパクトな超ケーラー多様体(例えばK3曲面に自明に作用する自明な群を考えれば, そこから生成される超ケーラー商は元のK3曲面そのものである. 以上の理由により, 超ケーラー商の非コンパクト性を証明するには, 何らかの仮定をつけなければならない. 本年度の研究において, ケーラー類の一つが自明な超ケーラー多様体にコンパクトリー群が作用して, そこから得られる超ケーラー商が滑らかかつ正の次元を持つならば, その超ケーラー商は非コンパクトであることを証明した. ここで, 最初に与えられる超ケーラー多様体のケーラー類の一つが消えているという仮定から, 少なくとも初期データは非コンパクトでなければならないことがわかるので, 上記に挙げた反例はこの仮定によって除外される.
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