研究概要 |
地球の表面積の約7割を占める海洋と大気の間の運動量, 熱および物質の移動量を正確に評価するモデルを構築することは, 地球温暖化予測や台風の発生・進路予測を行ううえで, 極めて重要である. しかしながら, 現在一般的に用いられているモデルにはいくつかの間題があり, その信頼性は低いままである. 一つ目の問題点は, 現在のモデルは海洋観測により得られた各種移動量を無理やり風速のみで相関したものであり, うねりなどの風以外の要因の影響がまったく考慮されていないことである. 二つ目の問題点は, 高風速域において, 低風速域のデータを外挿補完した信頼性に著しく欠けるモデルが使用されていることである. そこで, 本研究では, 高精度な測定が可能な風洞水槽を用いた室内実験により, 風波気液界面を通しての運動量, 熱および物質の移動量を直接測定し, うねりと高風速が移動量にいかなる影響を及ぼすかについての問題を解決することを目的とする. 本年度は以下に示す内容の研究を実施した. 【うねり】 うねりが風波気液界面を通しての熱移動に及ぼす影響を精密に評価するために, 液側温度の時間変化から風波気液界面を通しての潜熱と顕熱の移動量を評価することが可能な新たな測定方法を考案した. これにより波高の大きなうねりに対しても高い精度で熱移動係数を測定できるようになった. 【高風速】 液側バルク二酸化炭素濃度の時間変化より風波気液界面から放散される二酸化炭素量を算出する全体マスバランス法により, 高風速域における二酸化炭素の液側物質移動係数の測定を行った. その結果, 風速が20m/s程度までは液側物質移動係数は風速に対して単調に増加するものの, それ以上の風速に対しては激しい砕波の影響により, その値が急激に大きくなることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
風洞水槽において, うねりおよび高風速の影響を調べるために測定技術の開発を行った. さらに, その測定技術を用いて台風直下のような高風速域における風波気液界面を通しての二酸化炭素の移動量の測定を行い, 液側物質移動係数の風速に対する増加傾向が激しい砕波が発生し始める風速20m/s程度以上から急激に強まるという大変興味深い知見を得た. これらの研究成果を論文にまとめるに至ったことは, ほぼ期待通り研究が進展したと評価できる.
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