研究概要 |
本年度は、研究課題として挙げた『南部英語聖大伝(The South English Legendary)における女性表象の中でも、14世紀以降多く書かれるようになるイギリス自国の女性聖人に焦点を当て、前年度に行った写本の調査をもとに議論をまとめ、その成果の一部を発表した。2012年7月には、リーズ大学で開催された第19回Intenational Medieval Congressでは、Medieval Feminist Scholarshipによる'Following of Gender (or Not) in the Middle Ages'のセッションの一パネルとして発表した。後援学会とセッションの趣旨から、これまで行ってきた写本の調査に加え、ジェンダー/セクシユアリティの観点から、聖大伝テクストに描かれた中世イングランド・ウェールズの5人の聖女の表象について、古典期の処女殉教聖人と比較考察を行った。これまで中世の女性の聖性・霊性の典型とされてきた処女殉教聖人伝から、本研究課題が注目する中世イギリスの聖女であった女子修道院長聖女が、それらを下地としつついかに異なる形を描き出そうとしているか提示した。また、中世研究の分野では大規模な学会に出席・参加したため、同じ分野の海外の研究者らの助言を仰ぐことができた。 7月には学会終了後に、ロンドン大学の研究者と面会し、研究課題について、具体的な資料を持参して話し合った。また大英図書館にて、本研究で主なコーパスとして挙げている,『南部英語聖人伝』写本1点とそれに関連する写本数点の調査と一部テクストの転写を行った。 秋には、昨年度末より転写を行っていた慶應義塾大学図書館所蔵のHopton Hall MSの校訂版を学内の論文誌に共著で発表した。本写本は、研究課題が対象ととしている、中世後期イングランドの俗語(中英語)で書かれた宗教文学作品の読者について考える点でも、有益な視点を得たと考えている。また、本テクストは未刊行ヴァージョンでもあるため、校訂版として発表できた意義は大きいと考えている。
|