研究概要 |
最終年度にあたる本年度は, 前年度までの研究成果を踏まえ, 多言語の難易・可能構文を認知論的・語用論的な観点から統一的に捉えるための枠組みを構築することを目指し研究を進めた。本年度(本研究課題)の最終的な成果は, 博士論文『日本語と中国語の可能・難易表現に関する認知論的・語用論的研究』としてまとめ, 筑波大学に提出した。認知論的・語用論的な観点から難易・可能構文を統一的に扱ったことで, 「働きかけと抵抗力」という事態を構成する力に関わる認知的な要素, および「望ましさ」という語用論的な要素が難易・可能構文の成立可否と本来的用法からの拡張の可否に共通して関与していることを明らかにした。このように, 難易・可能構文に関与する認知的・語用論的な要素を抽出した上で, 「基盤事態活性型の形式/基盤事態非活性型の形式」という形式間の対立を記述するための概念, および「事態起点型の実現性表現を持つ言語/見込み起点型の実現性表現を持つ言語」という言語のタイプの違いを記述するための概念を提案した。これによって, 難易・可能構文に関わる形式間の異同と言語間の異同が統一的な観点から捉えられることを示した。 このように難易・可能構文を統一的に分析し, 対照言語学的な観点から言語間の共通点と相違点を一般的な概念で記述するという分析方法はこれまでの研究に見られない視点である。本研究は, 個別言語の中で分析がそれぞれ深化してきた難易構文研究、可能構文研究をさらに一歩進め, 対照研究・類型論的研究につなげる視点を提示した研究として位置づけられる。
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