研究概要 |
3ループ摂動QCDポテンシャルの評価に現れる多重和を評価するための2つのアルゴリズムを構築し、コードを公開した。QCDポテンシャルはマスター積分をMellin-Barnes積分に帰着させた後、留数定理を用いて多重和に変換される。これらの多重和はガンマ関数およびその微分を含む無限級数となるが、このうち、(a)r関数がキャンセルする多重和、(b)特定の形のみのΓが残る(和のindexの入り方が同じrが分子分母にペアで現れ、かつ、引数の差が微小パラメータを除いて半整数となるペアが1つ以下、それ以外のペアは差が整数)2重和については既に一般的な和について評価ができる。その計算のプログラムを改良、高速化し、Mathematica 8のパッケージとして実装、一般に公開した。 特に(a)のタイプの和に関しては、有理式の多重和であれば任意の和に適用できるため、QCDポテンシャルの計算を超えた広い分野に応用可能であり、様々な計算の解析的評価が可能になると期待される。また、数学としても興味深い研究対象であり、Multiple Zeta ValueやZ-Sumの研究に深く結びついている。実際、このアルゴリズムの応用として、今までに知られていなかったMultiple Zeta Value同士の関係式が導出された。さらに、多重無限和と多重積分を互いに変換することで、Log(x),Log(1±x),Log(1±ix),Log(1-xy),Log(1-x/y)などを含んだ多重積分の評価法としても利用できる。 Master積分の評価については、既存の結果の確認、一部の新しい値の解析的評価を行い、既知の解析的な値や数値的な結果とよい一致を見たが、最も複雑な3つのMaster積分に関しては未だに計算が完了していない。これらのMaster積分はεの一次までの展開係数が必要となるが、それらに現れる和はいずれも今回構築したアルゴリズムでは計算不可能な複雑なものであることが確認された。その計算のため、アルゴリズムの拡張(ガンマ関数を含む和に対する評価法や、一般化された超幾何関数を扱う方法)の研究を行った。
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