研究課題
特別研究員奨励費
原始惑星系円盤は惑星形成の場である。円盤内の固体(ダスト+氷)・ガス物質の分子組成は、形成される惑星やその大気の組成に反映される。特に水や有機物は生命にとって欠かせない物質であり、円盤内におけるそれら分子の生成効率や空間分布を明らかにすることは重要である。今年度は、円盤乱流が炭素や窒素を含んだ分子、特に複雑な有機分子(Complex Organic Molecules or COMs)生成に与える影響を調べた。その結果、乱流が弱い円盤ではCOMsは円盤赤道面で効率よく生成される一方、乱流が強い円盤では円盤表面で最も効率よく生成されることが分かった。宇宙空間においてCOMsは、低温環境(10K)で生成された氷が、紫外線照射と昇温(>20K)を経験することで生成されると考えられている。乱流により、紫外線が強く、暖かい円盤表面に氷が供給され続けることで、COMsが効率よく生成されることを明らかにした。この結果は、原始惑星系円盤の命子組成が局所的な化学反応のみでは決まらず、乱流による物質輸送が多大な影響を与えうることを意味する。結果は既に論文にまとめ、現在投稿中である。近年の室内実験や、それらと理論モデルとの比較から、ダスト表面を覆う氷マントルの層構造や、固体表面分子の確率論的な振る舞いが、ダスト表面上での化学反応を理解する上で本質的に重要であることが分かってきた。上述の研究と並行し、固体表面での化学反応をより詳細に取り扱う手法を計算コードに実装した。具体的には、固体表面の分子の確率論的な振る舞いを記述するためのmodified rate法を導入し、加えて、氷の層構造や固体表面の吸着エネルギー分布を考慮することが可能となった。現在、新しく導入した効果の影響を調査中である。
(抄録なし)
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