研究課題
特別研究員奨励費
本研究の目的は低次元材料の格子欠陥を制御することで熱整流作用を実現することである。低次元材料を用いるのは格子欠陥の影響を顕在化させるためであり、現在の技術で最も低次元の材料とされているカーボンナノチューブ(CNT)に格子欠陥を導入することで熱整流作用を発生し得ることが明らかになってきている。しかしながら、CNTを熱整流器などのデバイスに応用するためには、その特異な熱伝導特性を明らかにする必要がある。特に、多層カーボンナノチューブ(MWNT)は3000W/m・Kと高い熱伝導率を有し、単層カーボンナノチューブ(SWNT)よりも生産コストが低いことからCPUやパワーデバイスの放熱材料としての応用も期待されているが、数μmの長さスケールで長さによって熱伝導率が変化する熱伝導率の長さ依存性を示す。これは熱のキャリアであるフォノンが界面から界面へ弾道的に輸送される弾道的熱伝導が発生しているためである。シリコンなどではnmオーダーでこの現象が顕著になってくるのであまり問題にならないが、MWNTは数μmのデバイスとして用いられると想定されるため、長さ依存性が工業上重要である。そこで我々は集束イオンビーム(FIB)を用いたMWNTへの欠陥導入手法を開発し、MWNTの長さを分断するように欠陥を導入することでフォノンの弾道輸送を人工的に発生させ、独自のセンサを用いて熱伝導率を計測することで熱伝導率の長さ依存性を調査した。これによって、MWNTにおいては1μmを超える自由行程を有するフォノンが熱伝導率に大きく寄与しており、4.8㎛から0.3㎛に短くすることで熱伝導率が50%以上減少する長さ依存性を示すことが明らかになった。本研究はMWNTの長さ依存性を初めて定量的に計測したものであり、MWNTの実用に向けた有用な知見として認められ、国際的に評価の高いジャーナルに発表している。
(抄録なし)
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