研究概要 |
最近、悪性骨軟部腫瘍の一つである滑膜肉腫において、融合遺伝子産物であるSS18-SSXタンパクがATF2などと複合体を形成し、腫瘍形成に働くことが細胞株を用いた基礎実験で明らかとなった(Su L et al.Cancer Cell 2012)。それが事実であれば、ATF2は治療ターゲットになりうると考えられるが、臨床検体レベルでATF2が実際に発現しているかどうかは不明であった。そこで、滑膜肉腫68例を含む骨軟部腫瘍標本801例のtissue microarrayを用いて、ATF2の免疫組織化学染色を行い、ATF2発現の頻度および細胞内局在を調査した。最初に滑膜肉腫細胞株にATF2 siRNA処理を行い、未処理の細胞と同時にウエスタンブロッティングを行うことで、ATF2抗体の特異性を確認した。免疫染色の結果、ATF2核発現は滑膜肉腫、solitary fibrous tumor、desmoplastic small round cell tumor、子宮内膜間質肉腫、消化管間質腫瘍、悪性末梢神経鞘腫瘍などの融合遺伝子関連肉腫および紡錘形細胞肉腫で高頻度にみられた。以上の結果は、滑膜肉腫における基礎実験結果を支持するものであった。また滑膜肉腫以外にも融合遺伝子関連肉腫や紡錘形細胞肉腫でATF2核発現が高頻度にみられたことは、それらの肉腫においてもATF2が治療ターゲットとして有望である可能性を示唆するものであった。 また別の候補治療薬としてnavitoclax(ABT-263)に注目した。NavitoclaxはBCL2阻害薬の一つであり慢性リンパ性白血病への有効性が有望視されている薬剤である。Navitoclaxは抗アポトーシス分子であるBCL2の働きを阻害するが、同じくBCL2ファミリーに属する抗アポトーシス分子であるmyeloid cell leukemia 1(MCL1)が高発現している腫瘍では、MCL1はnavitoclaxにより阻害されないため、結果としてnavitoclaxは抗腫瘍効果を発揮できない。滑膜肉腫やsolitary fibrous tumor、clear cell sarcomaなどの骨軟部腫瘍はBCL2を高発現することが知られており、MCL1がもし低発現であれば、理論的にはnavitoclaxの良い適応となりうることになる。そこで、骨軟部腫瘍834例のtissue microarrayを用いて、BCL2およびMCL1のタンパク発現を免疫組織化学染色にて網羅的に解析した。その結果、clear cell sarcoma、mesenchymal chondrosarcoma、low-grade fibromyxoid sarcoma、滑膜肉腫などが高BCL2発現かつ低MCL1発現であることが明らかとなった。その中でも特に滑膜肉腫は、最近細胞株を用いた研究でnavitoclaxに高感受性であることが示されており(Jones KB,et al.Oncogene 2012)、navitoclaxによる薬物療法が新規薬物療法として有望であると思われた。
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