近年、バーチャルリアリティの分野で、物体の質感を提示する技術の開発が盛んに行われている。聴覚情報を加えることで、触覚的に知覚される素材感を操作する試みもなされているが、その多くは、物体に知覚される硬さが聴覚情報によって硬い(または柔らかい)方向へ変化するのか、あるいは、異なる材質に感じられるかという観点から検討するものであった。そこで、本年度は、物体を触ったときに知覚される硬さが、聴覚情報によってどのように影響を受けるのか、つまり、感覚の次元で変容するのか、あるいは判断のレベルにおいて影響を受けるのかについて信号検出理論を用いて検討を行った。また、これまでに、粗さ知覚において聴覚情報が影響を及ぼすとき、このクロスモーダルな影響は、触覚と聴覚の粗さ情報に整合性があるか否かにより変容することを報告してきた。このような触覚と聴覚の情報整合性の影響が硬さ知覚における感覚間相互作用にも影響を及ぼすかどうかについて検討した。 実験では、まず、指とシリコーン製の刺激サンプルの接触により生じた音を模して作成された聴覚刺激の残響減衰時間を操作し、実験参加者が触覚で感じられた硬さと聴覚刺激に感じられた硬さをクロスモーダルマッチングにより調整した。このとき得られた剛性の高いサンプルに対する減衰時間(短い)または剛性の低いサンプルに対する減衰時間(長い)をもつ聴覚刺激を刺激サンプルへの接触と同時に提示し、シリコーン製サンプルの硬さの弁別課題を行った。その結果、粗さ知覚における感覚間相互作用とは異なる傾向がみられ、感覚情報の整合性にかかわらず、聴覚刺激の残響減衰時間の長さに依存して、聴覚情報が物体の硬さ判断における弁別感度および反応バイアスを変容させることが明らかになった。この研究成果は国際学会で発表を行った。
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