生物活性化合物の多くは光学活性体であるために、光学的に純粋な化合物を得ることは有機合成のみならず、創薬の観点からも重要となる。 アセタールは、塩基性および中性条件下で安定なカルボニル基の保護基として有機合成に広く用いられている。平面的なカルボニル基と比べて、アセタールはその立体構造から不斉環境を構築することができる。当研究室では、光学活性なC_2対称ジフェニルジオールから合成できるアセタールを利用し、遠隔位のプロキラル炭素とアセタール炭素に不斉を誘起する反応を見出している。さらに、光学活性アセタールを用いる反応に不斉非対称化の概念を取り入れることにより、複数の不斉中心を一挙に構築する新規方法論の開発研究を行ってきた。申請者は、本方法論によって得られる化合物が変換可能な複数の官能基を含んいることに着目し、天然物合成におけるキラルシントンとしての利用を試みた。その結果、創薬資源化合物として注目を集めているLycopodiumアルカロイドの代表化合物であるclavolonineの新規合成経路の開発し、従来法と比べて短工程での不斉合成を達成した。本合成経路では不斉点を順次構築しており、置換様式の異なる誘導体合成が容易であるといえる。 さらに、アセトゲニンを始めとする抗腫瘍活性化合物の合成を指向し、立体選択的なbisTHF骨格の合成研究を行った。その結果、ヨードエーテル化反応を用いることにより、従来の合成法では合成が困難であったcis/cis-bisTHF骨格の簡便な合成に成功し、天然物合成へと応用した。
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