研究概要 |
炭素-炭素不飽和結合のヒドロホウ素化反応は合成化学上有用な有機ホウ素化合物を合成する効率的な方法の一つである.ヒドロホウ素化反応において位置選択性の制御は極めて重要である.本年度は,ボリル銅と銅ヒドリドという異なる活性種を使い分けることにより非対称内部アルキンの位置選択的ヒドロホウ素化反応が進行するという知見を元に,位置選択性の制御が極めて困難なアレンへと適応した.シクロヘキシルアレンを基質とし,触媒として(ClIPr)CuClを用いて,ビスピナコラトジボロン(B2(pin)2)とメタノール存在下,THF中,室温で反応を行った,その結果,ビニルホウ素化合物が高い選択性で得られた.興味深いことに,触媒として(MeIMes)CuClを用いトルエン中,-20℃で反応を行ったところ,先の反応とは異なる構造をもつビニルホウ素化合物が得られることを見出した.一方で,ピナコールボラン(HB(pin)を用いた場合にはホウ素の導入位置が異なるアリルホウ素が高い選択性で得られた.即ち,活性種ならびに配位子を適切に用いることにより,ビニルホウ素化合物やアリルホウ素化合物の選択的合成に成功した.ここで,反応機構に関する知見を得るため量論反応を行ったところ,活性種と考えられるボリル銅ならびにこの錯体がフェニルアレンへと付加することにより生じるアリル銅錯体を単結晶X線構造解析によって同定することに成功した.さらに,この知見を基に求電子剤としてアリルリン酸エステルを用いることにより高選択的なアレンのアリルホウ素化が進行することを見出した.ここでも量論反応を検討し,ボリル銅がアレンへ付加して生じる銅化学種がアリルリン酸エステルとの置換反応によって目的生成物を与えることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までに得られた銅触媒を用いたアルキンの部分還元反応ならびにヒドロホウ素化反応の開発による知見を元に,生成物の制御が困難なアレンの位置選択的ヒドロホウ素化反応の開発に成功した.この反応における重要な中間体となる銅錯体を単離し単結晶X線構造解析による同定に成功した.さらに,この反応を展開しホウ素官能基の導入を伴うアリルーアリルカップリング反応へと展開した.これらは本研究課題を遂行する過程で見出された研究成果であり,当初計画では想定出来なかった新たな知見である.即ち,本研究課題は当初計画以上に親展していると言える.
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