研究概要 |
今年度は,主に以下の2点について研究を行った. 1.あるエータ商が生成するHecke加群の研究 エータ商とは,Dedekindのエータ関数の積と商によって表わされる関数のことをいう.昨年度の研究において,あるエータ商が生成するHecke加群の次元が,ある虚2次体の類数に一致するだろうと予想したが,D.Zagier氏からの助言を得て,実際にそのことを証明することができた.具体的な証明の手順は以下のようになる.まず,エータ商を,ある虚2次体のイデアルに関する和に書き直し,エータ商がこの虚2次体によるCMをもつことを示す.次に,エータ商が生成するHecke加群が,あるrayclass指標に付随する,類数個のテータ級数たちによって生成される加群に含まれることを示す.最後に,エータ商が,類数個のテータ級数の「すべて」を用いた線形結合で表されることを示し,証明が完了する.この結果の意義として,エータ商へのHecke作用を調べることで,虚2次体のイデアル類群の研究への応用が期待されることが挙げられる. 2.octahedral型のモジュラー形式の明示的表示を与えたこと 重さ1のモジュラー形式には,octahedral型と呼ばれるものがある.この型のものに対しては,既知の関数を用いた明示的表示の例が今までに知られていなかったが,今回の研究で,あるoctahedral型のモジュラー形式に対して,重さ1のテータ級数を用いた表示を与えることができた.その方法は,重さ1のテータ級数の平方が生成するHecke加群(従って重さ2の空間の部分空間)を考え,octahedral型のモジュラー形式の平方が,そのHecke加群に含まれることを,PARI/GPによる計算で確かめることであった.
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