本研究は哺乳類の卵成長過程でおこる減数分裂能獲得機構の分子メカニズム解明を目的に、ブタ成長途上卵の減数分裂能欠損の原因と考えられる「PKAの恒常的活性化」と「CDC2の不足」に着目して解析を開始したが、前年度において特にPKAの局在制御機構と減数分裂能との関与が示されたため、本年度はこれに注目して検討を進めた。PKAは、制御サブユニット(PKA-R)に結合するアンカータンパク質(A-kinase anchor protein ; AKAP)によって局在が制御される。AKAPは50種以上存在するがブタ卵母細胞に発現するAKAPは未だ不明であったため、まずfar western blotting法を応用した網羅的検出法を確立した。検出された複数種のAKAPの分子量から予測されるAKAP遺伝子をクローニングし、ブタ卵母細胞に発現するAKAPとしてAKAP1、AKAP5、AKAP7αの3種を同定した。強制発現や発現抑制を行い、減数分裂やPKA局在への影響を解析した結果、成長卵では、AKAP5がPKA-R2の細胞質局在制御を介して減数分裂の再開を抑制すること、また成長途上卵ではAKAP5に加えてAKAP7αが、PKA-R2ではなくPKA-R1の細胞質局在を制御して減数分裂再開を抑制していることが示唆された。さらに各PKA-Rの機能阻害を行ったところ、成長卵ではPKA-R2、成長途上卵ではPKAS-R1を特異的に阻害したときに減数分裂が再開した。以上の結果は、成長卵と成長途上卵とで機能するAKAPやPKA-Rが異なることを示しており、卵成長過程で機能するPKA-R/AKAPが切り替わることが、ブタ卵成長における減数分裂能獲得の本質であると考えられた。
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